いよいよ夏も本格的になってきましたね!皆さま体調など崩さずお過ごしでしょうか?
今日は、とても夏らしい、フレッシュで元気が出るあの名作北欧デザインについて、じっくりたっぷりお話したいと思います。
ただの葉っぱ…されどただの葉っぱにあらず
私たちソピバのブログを見てくださる北欧好き、とくにスウェーデン好きの方には、このデザインをご存知の方やこのデザイン大好き!という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そう、これはスウェーデンを代表する老舗の陶磁器メーカーグスタフスベリ陶磁器が、1960年に家庭用食器シリーズとして発売を開始した
ベルサ Bersa という名前のデザインです。
スウェーデンの文字ではBersåと、Aの上に丸が付くスカンジナビア語特有の表記で、本場の発音は「ベルソ」「ベルソー」または「べショー」という感じなのですが、日本では「ベルサ」という呼び名で一般的に親しまれています。
とってもインパクトのあるデザインですが、よくよく見ると、これはただ葉っぱが並んでいるだけのもの…。
と言うなかれ。
一見ごくごくシンプルなこの葉っぱデザイン。その裏に隠されたストーリー、そしてこの葉っぱデザインを世に出したスウェーデンの巨匠アーティスト、スティグ・リンドベリという人について、今日はじっくりとお話したいと思います。ぜひお付き合いいただけたら嬉しいです。
1960年~1974年、14年間のみつくられたテーブルウェア
ベルサのデザインは、1960年にスウェーデンを代表する老舗陶磁器メーカー、グスタフスベリ陶磁器から、家庭用食器シリーズ用のデザインとして誕生しました。
アイテムとしては、コーヒーカップやティーカップ、ティーポット、プレート、また変わり種としては塩コショウ入れや、バターケース、シュガーポットなどなど…20種類以上のテーブルウェアが作られました。ただ、製造期間はたったの14年間。製造された絶対数が、圧倒的に少ないのです。
陶磁器は壊れものですから残された数は少なくなる一方。1960-1974年当時に製造されたものは「ビンテージ」とよばれるようになり、現在はスウェーデンだけでなく世界中のアンティークフェアやフリーマーケット、オークションなどで高値で売買される、アートピースとなりました。
日本でもこの柄は北欧ビンテージの代表、また日本の北欧ブームの火付け役になったといわれる有名デザインです。
北欧やスウェーデン、スティグ・リンドベリというアーティストは知らなくても、どこかで見たことがあるな~という方も多いのではないでしょうか。
スティグ・リンドベリというアーティスト
ここで、スウェーデンを代表する巨匠アーティスト、スティグ・リンドベリについておさらいしておきましょう。スティグ・リンドベリはスウェーデンのミッドセンチュリーを代表する芸術家として知られ、スウェーデン国立美術館で単独展覧会が行われたりするほどです。
1916年8月17日 スウェーデンのウメオに生まる。
1935年-1937年 ストックホルムにあるスウェーデン国立美術工芸大学コンストファック(Konstfack、当時はテクニスカスコーランTekniska skolanという名前)で学ぶ。このコンストファックでであったグンネルと1939年に結婚し、ストックホルム旧市街のガムラスタンに居を構える。
1937年-1980年 グスタフスベリ陶磁器にて働く。
※1937年-1940年はヴィルヘルム・コーゲの元で研究生として陶芸を学ぶ。
※1949年-1957年は師匠ヴィルヘルム・コーゲの後を引き継ぎ、グスタフスベリのアートディレクターに就任。
※1954年、23歳のリサ・ラーソンの才能をいち早く見出し、グスタフスベリへの入社を勧める。
※1972年-1980年はアドバイザーに就任。
1947年–1982年 ストックホルムの老舗百貨店ノルディスカ・コンパニエット(Nordiska Kompaniet、略してNK)にテキスタイルデザインを提供する。
1957年-1972年 母校コンストファックの主任講師として教鞭をとる。
1980年-1982年 イタリアでアトリエを構え活動を行う。
1982年4月7日 65歳、イタリアで永眠。
スティグ・リンドベリは、グスタフスベリ陶磁器のアートディレクターとしてのキャリアが長く、またそれが最も有名ですが、他にも絵本の挿絵やガラス、プラスチック製品、またテキスタイルデザインなど幅広い分野で活躍するというマルチな才能に恵まれたアーティストでした。
また実は、1959年には日本の西武百貨店の包装紙をデザインしています。当時リンドベリのグラフィックデザイナーとしての才能も、世界のアートシーンで大きな反響を呼びました。下の写真は、2016年リンドベリ生誕100周年を記念して日本の西武百貨店池袋本店のギャラリーで行われたスティグ・リンドベリ展の様子。左側の赤いパターンが、当時の包装紙のデザインです。
スティグ・リンドベリのデザインの魅力についてはさまざまな解釈がありますが、やはり最大の特徴は斬新さとファンタジー溢れる遊び心。その自由さが、私たち見るものの創造力を刺激し、豊かな気持ちにしてくれることが、大きな魅力の一つではないでしょうか。
リンドベルのデザインは、ベルサの葉っぱ、プルーヌスのプラム、アスターのお花のような身近な植物や、アダム、エバ、スピーサリブのようなドットやストライプのシンプルな模様が元となっています。そのような普遍的なモチーフを芸術として生まれ変わらせる才能が、リンドベリが時代や国境を越え愛される理由の一つでもあると思います。
作品にサインは必要か
スティグ・リンドベリは、1959年に来日しました。その際日本の民藝関係者と議論を交わした記録が残っていますが、その中に「自分の作品にサインを残すか」というテーマがありました。
日本の民藝、つまり暮らしの中で使われる目的で作られる工芸品は、名もなき職人の手仕事の美しさ、名前を前に出さない謙虚さを美とする風習がありました。そのため、民藝の立場からは「サインは不要で、ものを見ればわかる」という主張があったそうです。
それに対して、リンドベリは「作品に対する責任から作品にはサインを入れるべき。愛する人に手紙を書くとき、書いた人のサインがなければ愛を伝えることはできない」と反論しました。
こうしたリンドベリのサインに対する考えは、当時リンドベリと共にスウェーデンのNK百貨店のテキスタイル部門で働いていたテキスタイルデザイナー、アストリッド・サンペも同様の考えでした。サンペは、テキスタイルデザイナーとして初めて作品にサインを残すことを始めたアーティストと言われています。
ちなみに、リンドベリと同世代に活躍していたフィンランドのカイ・フランクは、日本の民藝と同じ考えだったそうです。フィンランド、スウェーデン、そして日本のお国柄や国民性が少し垣間見られるような面白いエピソードではないでしょうか。
1960年という時代にうまれたベルサ
さて、このベルサ柄がうまれた1960年という時代を振り返ってみましょう。
1900年代には2回、世界中が巻き込まれる大規模な戦争がありました。スウェーデンはその間中立を保ち、戦争に参加しなかった事でも有名な国でもありますが、そんなスウェーデンでもやはり戦時中は暗く悲しい雰囲気が国中にあふれていたといわれています。
また、そんな戦争の影響に加え、スウェーデンという国がもともと貧しい農業国であったという歴史の影響もあり、1950年代ごろまでに一般家庭で使われていたテーブルウェアはとてもシンプルで華美な装飾がない、機能重視なものでした。
そんな時代にリンドベリが世に出したのがこのベルサ。緑の葉っぱに黒い葉脈がくっきりと大胆に描かれたデザインは、当時の常識をひっくり返すようなインパクトでした。
実は、ベルサのデザインに対しては、グスタフスベリ社内では製品化に反対の声も多かったそうです。中でも販売を担当する営業部は、こんなデザインが売れるわけがない、こんな食器で食事をしたい人がいるわけがないと、大反対だったそうです。
ところが、実際に発売が開始されると大変な売れ行きで、多くのスウェーデン人たちの心をつかみました。その人気の背景には、戦中戦後の暗い時代に終止符を打ち、新しく明るい時代を迎えたいという大衆の切なる想いがあったのかもしれませんね。
その後もスティグ・リンドベリは数々の名作デザインを生み出し続けましたが、この「ベルサ」のデザインほど、リンドベリを象徴するデザインはないといわれています。
「ベルサ」という言葉が意味するものは
もともとスウェーデン語のBersåという言葉には、「緑に囲まれた小さなスペース」という意味があります。例えば庭などにこうした「ベルサ」を作って、そこでお茶を飲む時間を楽しみます。
ガーデニングはもちろんですが、インテリアに観葉植物を用いたりなど、日々の暮らしに自然やグリーンを取り入れることが上手なスウェーデン人。そしてそんな自然が大好きなスウェーデン人ならではのネーミングです。
確かに、ベルサ柄の雑貨を暮らしの中に取り入れると、まるでそこに観葉植物があるような雰囲気で自然を身近に感じることができます。花ではなく、葉っぱ、というのも、フレッシュな雰囲気をより強めている感じがします。
リンドベリ生誕100周年を記念した復刻アイテム
さて、ソピバのお店でも取り扱っているさまざまなベルサ柄のキッチン雑貨やインテリア雑貨。こちらは、2016年、スティグ・リンドベリの生誕100周年を記念して作られたアイテムです。100周年で満を持して…リンドベリの作品の中でも最も人気の高く、これまでファンからも最も要望の多かった「ベルサ」の柄が、食器以外のキッチン雑貨として登場したのです!
トレーやキッチンタオル、ペーパーナプキンなど普段の生活にすぐに取り入れられたり、またプチギフトや本格ギフトとしても活躍する嬉しいアイテムばかり。
ちなみに先日、ソピバのフィンランド在住スタッフあおいさんが、とっても素敵にベルサを暮らしの中に取り入れている様子をご自身の人気ブログで紹介してくれたので、よろしければご覧ください。
この復刻ベルサアイテムのデザインは、スティグ・リンドベリの息子でベルサデザインの版権所有者であるラーシュ・リンドベリ氏が、こだわりを持って監修行いました。製造はほぼ全てスウェーデンで行われ(一部アイテムはドイツ製)非常に高いクオリティです。
オリジナル同様に深みのある落ち着いたグリーンが特徴的で、デザインそのものが持つインパクトやデザイン性の高さを忠実に伝えています。また、全ての商品には、リンドベリのこだわりでもあった「サイン」が入っています。
もちろん、オリジナルのビンテージ陶磁器の存在感は圧倒的ですが、雑貨も負けてはいませんよ。なによりビンテージ陶磁器に比べお求めやすい価格も嬉しく、アイテムも活躍シーンが多い便利なものばかり。
キッチンやインテリアの素敵なアクセントとして、私たちの毎日の暮らしを少し楽しく少し元気にしてくれる、うれしいアイテムです。
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さて、今回は長々とベルサについてお話しました。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
これからも、ソピバのブログでは時々、じっくりと…ゆっくりと…デザインやデザイナーのお話をさせてくださいね。
では、これからが夏本番。ぜひ自然が感じされるフレッシュなベルサ柄をお楽しみください。