3月13日、20日、27日と3回にわたり、スウェーデンのコロナ状況をまとめてきました。
少し時間をおいてみましたが、前回から約3週間の今、改めて現状をまとめます。
このコロナ対策が続くにつれて、スウェーデンという国の特性がより深く見えてきたように感じます。
死者数の推移
スウェーデンで初めてコロナウィルスで死者が出た3/13から現在までの感染者及び死者数の推移は以下の通り。
3/13 感染者801名 死者数1名。
3/20 感染者1,623名 死者数16名。
3/27 感染者数3,046名 死者数92名。
そして4月16日(木)14時発表のスウェーデンの感染者は12,540名 死者数1,333名です。(スウェーデンの人口約1000万人)
上は、スウェーデンの公衆衛生庁の公式サイトです。見やすくまとまっていて参考になります。
感染者数は、検査のやり方や検査数の方針が国により異なり比較が難しい一方、死者数は他国との比較に用いやすい数字です。さまざまな国の4/16時点での人口100万人あたりの死者数を見てみると、以下の状況です。
イタリア:358.03人
フランス:263人
イギリス:189.55人
スウェーデン:119.12人
アメリカ:93.61人
ドイツ:42.60人
フィンランド:12.99人
日本:1.08人
参照サイト:https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/death.html
こうしてみると、スウェーデンでは人口比で相当な数の死者が出ています。一方日本は驚くほどの少なさということが明らかです。
ヨーロッパに比べてアジアでの感染拡大や死者数が少ないことについては、ネット上でもさまざまな人がさまざまな見解を述べています。BCGの効果だとか、、、もともと濃厚接触が少ない文化だとか、、、。
しかし実際に何がどのような影響を及ぼしたのかは、このコロナウィルスの研究が進みすべてが歴史となった時に、初めて解明されることなのだと思います。
スウェーデンの状況
死者数が増え続けるスウェーデンですが、前回3月27日に投稿してから今日までの3週間の間に、スウェーデンの社会規制では大きな変化はありませんでした。
特に高齢者や疾患のある方を中心に、全国民に対しての外出自粛要請は出ているものの、他国のようなロックダウンや国境閉鎖、学校休校は行っていません。
- イベント:3月29日から50人以上の集会が禁止。
- 海外渡航:EU外からの入国は禁止、ただし国民、医療関係者、外交官など例外あり。この禁止は4月16日にさらに30日延長することが発表されました。
- 国内旅行:引き続き自粛要請。
- 学校、保育園:引き続き通常授業。高校、大学、社会人学校は引き続き遠隔授業。
- 交通機関:本数は夏休みダイヤで少なめですが、通常通り運行しています。ただ利用者は少なく、1車両に数人の乗客のみという状態が続いています。
- 感染の恐れがある場合:スウェーデン医療相談窓口1177に電話をすること。
スウェーデン政府が要請している外出自粛や可能な限りの自宅勤務には、法的拘束力はありません。子供たちも一度も休校になることなく、保育園、小学校に通っています。学級内の欠席者数は少しずつ少なくなっているようです。
高齢者施設でのクラスター
この3週間でもっとも感染が拡大しているのは高齢者施設です。公衆衛生庁の発表した以下のグラフでは、紫はスウェーデン全体の感染者数を、そのうちの緑は高齢者施設での感染者数を表しています。約1/3が高齢者施設での感染となり、政府も危機感を強めています。
現在高齢者施設への訪問は原則禁止となっています。
写真引用:4月16日公衆衛生庁の記者会見の資料より
医療施設
スウェーデンは総力を挙げて、集中治療設備の準備を進めています。3月20日のブログにも書いたように、例えばストックホルム展示会場(東京ビッグサイトのような施設)を、コロナウィルス感染対応の医療施設としての準備を進めました。3月31日の時点で570人の患者受け入れ態勢が整い、そのうち10は集中治療の設備を備えているということです。
写真提供:MARCUS ERICSSON
現在死者数は1日40人前後で安定した推移、またはやや減少傾向であることから、公衆衛生庁は「医療崩壊が起こっていない」と判断しています。
スウェーデンの作戦はウィルスの封じ込めではなく、ウィルスとの共存です。長期戦でウィルスを少しずつ広げていくというわけです。
ちなみに、集中治療室からの復帰率は80%と高い割合となります。これは3月27日のブログに書いたように社会庁が示す治療優先順位により「助かる見込みの高い人」が優先的に集中治療を受けているからだと思われます。
逆にいえば、この優先順位により死者数が多くなっているとも考えられます。
感染防止設備の不足問題
医療現場や高齢者施設で働く医療、介護スタッフが使用する感染防止用の防護服やマスクの不足が心配されています。
スウェーデン労働環境局(Arbetsmiljöverket)はこれまで医療現場で使用される防護服やマスクはCEマーク(商品がすべてのEU 加盟国の基準を満たすものに付けられる基準適合マーク)のみ使用許可していましたが、4月7日からCEマークのないものでも使用可能として規則を変更しました。
それでも現場からは防護具の不足に対する不安の声が多数聞こえるようになりました。
市内の様子
天気が良い日は日中の気温が15℃ほどになり、スウェーデンでは「春真っただ中」。気候が良くなるにつれ、外に出てくる人が増えるようになりました。市内のレストランのテラス席で食事を楽しんだりする姿も見られるようになっています。
当然これは政府の要請に反するものなので、ニュースなどでもこの様子が問題であるとして何度も取り上げられています。
国王のスピーチ
4月6日19時30分からスウェーデンのカール16世グスタフ国王が全国民に向けた演説がスウェーデン国営テレビで放送されました。演説は7分間ほどでした。
写真:スウェーデン国営テレビSVTの放送
スウェーデン社会全体に与える影響に言及し、不況に苦しむ人々や医療現場で戦う人たちに共感を示しました。国民に対しては冷静な対応と、一人一人が責任をもって感染拡大防止に努めることを再度お願いする内容です。
また、このパンデミックは必ず終わるもので、「皆が一丸となって乗り越えよう」と、国民の共感や協力を訴える内容でした。
このメッセージが放送されたのはイースター(復活祭)の大型連休前の月曜日でした。実はこのイースターの大型連休明けに感染が爆発的に拡大することが非常に心配されていました。
しかし実際は連休明けの感染数はむしろ減少傾向にあったそうです。
本来であればキリスト教国であるスウェーデンでは、イースターには教会での大規模な集いを行ったり、旅行に行ったり、親せき親族の集まりが盛大に開かれる時期です。この国王のメッセージがイースター前に出されたことは、イースター中の感染拡大を防ぐための対策の一つだったと思います。
スウェーデンの覚悟
スウェーデンのステファン・ロベーン首相は、3月の初めの記者会見のころから
「このコロナウィルス感染でスウェーデンでは少なくとも数千人の死者がでるだろう」
と述べてきました。
写真:スウェーデン国営テレビSVTで放送の定例記者会見生中継 4月16日
また
「感染拡大は、国民の半数以上が感染して抗体をもつまでは感染は拡大を続けるだろう」
とも発言しています。
さらに4月16日の首相の定例記者会見である記者が
「この厳戒態勢はいつまで続くのか、これでは経済がもたないではないか」
と質問しました。それに対しロベーン首相は
「厳戒態勢はいつまで続くか、その終わりの日にちは今の段階ではわかりません。しかしこれが数週間で終わるものではなく、数か月は続くという前提でいる必要があります。」
と断言しました。
さて、そのような前提で覚悟を決めた上で、スウェーデンが当初からずっと最重要課題としていることは
- 感染拡大のスピードを遅くして、急激に感染者が増えないようにすること
- 感染拡大よりも早く医療体制を整えること
つまり数千人が感染して死亡することは想定内、その上で医療崩壊せず必要な人に必要な治療を提供するということです。先述しましたがウィルスの封じ込めではなく、共存という作戦です。
全ての対策は上の目標を達成するためであり、それ以上でもそれ以下でもない、ということです。
スウェーデンのやり方が正しいかどうかは、今の段階ではだれにも判断できないし、そんなことを議論する意味もありません。しかし、私がなにより驚くのはこのような首相や専門家の大胆かつ冷徹とも思える発言を、冷静に受け止めるスウェーデン一般市民です。
日本で安倍首相が
「コロナウィルスでこれから数万人の死者が出るでしょう」
「国民の半数以上が感染するまで感染は続くでしょう」
「厳戒態勢は今後数か月は続くという覚悟が必要です」
など発言をする様子を想像し…
それを報じるメディアの様子を想像し…
…絶対にありはしないことですが、想像するだけで背筋が凍る思いです。
国と国民の信頼関係
ロベーン首相の発言や公衆衛生庁の記者会見で発表される情報から、一つはっきりとわかることがあります。それは、国や公的機関が
このような大胆発言をしても、国民には冷静に受け止めるキャパシティがあると信じている
ということです。
私が思うスウェーデン人にとって社会で大切なことは
- 情報の正確性が高いこと
- 正しい情報が正しく伝えられること
- 希望する誰もが、必要な情報にアクセスすることができること
- 政治や組織が透明で正直であること
これは今回のような非常時でなくても常に大切とされていることで、例えばそれはスウェーデンの教育の根底部分にも多く見られます。また国会を誰でもいつでも見学ができることや、国会議員の経費領収書のファイルは申請さえすれば誰でも全てを閲覧できることなどからもわかります。
つまり、国、会社、組織としての透明性を高めることで、国民や組織内にいる人達との間に信頼を築いています。ひいてはそれがロックダウンや強固な法的手段ではなく「要請」レベルでも協力してもらえるという安心感につながっているのです。
日本の緊急事態宣言
さて日本では4月8日、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡を対象とした「緊急事態宣言」が発令されました。4月17日にはその範囲は全国へと広げられることになりました。
安倍首相によると、この宣言発令の目的は「国民の皆さんの行動を変えること」だそうです。人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減させることが目標です。それができなければより強固な手段をとるかもしれないということですが、実際「8割削減」といわれてもどうしていいのかわかりにくいというのが、一般的な感想のようです。
緊急事態宣言の発令を受け、多くのテーマパークや商業施設、百貨店、商店、飲食店などが休業となり、経済的には非常に大きな影響が出ています。一方これまで可能なのにリモートワークを行っていなかった大企業などは、この機会にリモートワークを取り入れ、一気に働き方改革が加速するという見方もあるようです。
この緊急事態宣言の期間は5月6日までということで、ゴールデンウィークも含まれます。
この1か月日本の社会や国民がどのように行動するのか、また1か月後にはたして本当に緊急事態宣言が解除され、商店や飲食店は営業を始めることができるのか。注視したいと思います。
スウェーデンの行く末を世界が注目
さてスウェーデン。
スウェーデンの人口当たりの死者数がこれだけ大きくなる中で、飄々として日本や中国、また他の欧米諸国とは異なる対策をとるスウェーデン。
スウェーデン政府のコロナ対策が、世界中のどこの国とも異なることは、じわりじわりと注目を集めてきています。
4月8日には、アメリカのドナルド・トランプ大統領までもが定例記者会見でスウェーデンのマイルドなコロナ対策を取り上げ「スウェーデンは今苦しい状況に陥っている」などとコメントしました。
当然これはスウェーデンでもニュースになりました。しかし公衆衛生庁(そして国民の大多数もおそらく同意見)のコメントは「あまり深刻にとらえる必要はない」とのことで、マイペースを貫く姿勢です。
そもそも、当初から数千人の死者が出て、危機的状況が数か月は続くというのが、国と国民の間での共通認識なわけなので、他国がどういおうと国も国民もどっしりと構えています。
もしこのままの緩やか対策で、医療崩壊が起こることなく、コロナ感染を収束まで至ることができるとしたら。
もしかすると、経済的な打撃が一番少なくやり過ごし、またその後の経済復活が一番早いのは、スウェーデンなのかもしれません。
スウェーデン在住:ダールマン容子
※記載には公的機関のホームページなどの情報をできるだけ正確に集めましたが、万が一誤った情報などにお気づきの方はどうぞご連絡ください。
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